マケインという政治家は、よく分からないところで損をしてでも筋を通す人として知られており、またテレビの深夜トーク番組で政治家として信じられないような自虐ジョークを飛ばすので、政治通のあいだの評判は高い。筋を通すということで言えば、たとえば「政治家が地元に利益を誘導するのはけしからん」と口先で言う政治家は多くても、マケインほど徹底して本当に利益誘導しないために選挙の度にそこを有権者に突かれてピンチに陥っている有力ベテラン議員は珍しいし、大統領選挙において一番最初の党員集会が開かれるアイオワ州のトウモロコシ農家の前にわざわざ出て行って「トウモロコシを原料とする燃料への助成金に反対する理由」を堂々と説明するのもこの人くらい(『The West Wing』のヴィニック議員のモデルはマケインだろう)。
しかし長年そうした活動をしてきたマケインは、常に議会においても地元においても孤独だった。シカゴにおいては民主党の伝統的なマシーン・ポリティクスのお世話になり、上院に当選してからは民主党内の大勢に従ってうまく立ち回ってきたオバマと違い、マケインは民主党と共和党のあいだに立ってこそ存在感を示せたものの、味方をほとんど作ってこなかった。そのため選挙戦が本格化するとブッシュ大統領の過去二回の選挙を担当してきたチームに頼り切るしかなくなり、その結果採用されたのが、保守層へのアピールと対立候補への中傷攻撃を中心に据えた戦略だった。
その象徴はもちろんサラ・ペイリン知事を副大統領候補に指名したことであり、オバマをテロリストや選挙不正にこじつけたり社会主義者だと非難したりする宣伝だ。マケイン陣営に入り込んだブッシュ人脈は、なんと8年前の選挙でマケインの黒人隠し子説や夫人麻薬中毒説を宣伝したのと同じ業者を雇い、今度はオバマに対する中傷宣伝をやらせた。これはわたしの個人的な思い入れに過ぎないかもしれないのだけれど、インタビューなどでこれらの点を聞かれて不愉快そうに釈明してみせるマケインを見ていて、ああ本人としては不本意な選挙戦略を取らされているんだろうなあと思っていたが、敗北演説のときのすがすがしいマケインの表情を見てその印象をさらに強くした。